奥歯がない部分に持続的な痛みや、時折走る激痛がある場合、そこにはいくつかの疾患が隠れている可能性があります。まず疑われるのが「義歯性潰瘍」に近い状態です。すでに入れ歯を使用している場合に多いのですが、入れ歯が合っていないために、歯のない部分の歯茎が強く圧迫され、傷や潰瘍ができているケースです。しかし、入れ歯を使っていないのにもかかわらず痛むのであれば、話は別です。その場合に考えられる病気の1つは「顎骨骨髄炎」です。これは歯を失った後の骨の中に細菌が侵入し、慢性的な炎症を引き起こす病気です。抜歯した際の感染が完全には治りきっていなかったり、血液疾患や糖尿病などの全身疾患、あるいは骨粗鬆症の薬の副作用などが関係して骨の壊死や炎症が起きたりすることがあります。この病態では、歯茎が腫れるだけでなく、重苦しい痛みや痺れを伴うこともあります。また、別の可能性として「角化嚢胞」などの骨の中にできる袋状の病変や、腫瘍が隠れていることも否定できません。これらは初期段階では無症状ですが、大きくなるにつれて周囲の組織や神経を圧迫し、痛みや違和感を引き起こします。さらに、神経痛の一種である「三叉神経痛」も考慮に入れるべきです。顔の感覚を司る三叉神経が血管などによって圧迫されると、奥歯があったあたりに電気が走るような鋭い痛みを感じることがあります。これは歯そのものの問題ではありませんが、患者さんはしばしば「奥歯がないところが痛い」と表現します。診断のためには、通常のレントゲンだけでなくCT検査による骨の内部構造の確認、あるいはMRIによる神経や軟組織の精査が必要になる場合があります。加えて、心理的なストレスが身体症状として現れる「身体表現性障害」の一環として、口腔内の慢性的な痛みが続くことも知られています。このように、歯がない場所の痛みは単なる粘膜の傷から重篤な骨の病気、神経の疾患まで幅広い可能性を含んでいます。自己判断で様子を見続けるのは危険であり、特に痛みが日に日に増している、腫れを伴う、膿が出る、麻痺感があるといった症状がある場合は、一刻も早く口腔外科などの専門外来を受診することが推奨されます。適切な診断に基づいた治療を行えば、長年悩まされていた痛みから解放され、再び快適な生活を送ることができるようになります。
歯のない奥の歯茎が痛む病気の正体