「奥歯の奥のほうがなんとなくぶよぶよしているけれど、痛みがないから放っておこう」という判断が、どれほど恐ろしい結果を招くか、私たちは真剣に考える必要があります。歯茎が腫れて柔らかくなっている状態を放置し続けた末路は、単にその歯を1本失うだけでは済みません。まず最初に起こるのは、隣接する健康な歯への感染拡大です。奥歯は隣り合う歯との距離が近く、歯根を支える骨も共有している部分が多いため、1か所の激しい炎症は、隣の歯を支える骨まで巻き込んで溶かしていきます。気づいた時には、1本の問題だったはずが、3本まとめて抜歯しなければならないという悲劇的な状況に陥ることがあります。さらに恐ろしいのは、顎の骨全体への影響です。膿が溜まった状態が長引くと、骨髄炎と呼ばれる病気に発展することがあります。これは顎の骨の内部にまで細菌が入り込み、骨が腐ってしまう病気です。激痛と共に高熱が出て、入院しての点滴治療や、場合によっては腐った骨を取り除く大きな手術が必要になることもあります。また、奥歯の上の方には上顎洞という大きな空洞がありますが、上の奥歯の炎症を放置するとここへ細菌が移り、重症の副鼻腔炎(蓄膿症)を引き起こします。これにより、鼻詰まり、頭痛、顔面の痛みなどに永続的に悩まされることになります。さらに視点を広げると、口腔内の炎症から漏れ出した細菌が血管を通じて全身に及ぼす影響は甚大です。特に近年注目されているのが、心原性脳塞栓症や感染性心内膜炎です。歯茎のぶよぶよとした部分には、血管が非常に発達しているため、そこから細菌が容易に血液中に入り込みます。それが心臓の弁に付着して増殖したり、血栓を作って脳の血管を詰まらせたりするのです。たかが歯茎の腫れが、突然死の原因になるという事実は、決して大げさな脅しではありません。また、慢性的な炎症は体内の炎症性サイトカインを増加させ、インスリンの働きを阻害するため、糖尿病を劇的に悪化させます。逆に言えば、歯茎の腫れをしっかり治療することで、血糖値が改善する例も多く見られます。このように、奥歯の歯茎のぶよぶよとした腫れを放置することは、自分の命を危険にさらしているのと同義です。痛みがないという不気味な静けさこそが、最も警戒すべき状態なのです。早期に治療を受けていれば、簡単な洗浄と数回の通院で済んだものが、放置したことによって莫大な医療費と失われた健康、そして長い苦痛を伴うことになります。自分の将来の姿を想像し、あのぶよぶよとした感触を「単なる疲れ」で済ませることなく、今日という日が人生で最も早くこの問題に対処できる日であると考えて、一歩を踏み出してください。