本事例では、50代後半の男性患者が左上奥歯の歯茎が数ヶ月前から腫れたり引いたりすることを繰り返し、ついに指で押すと膿が出るほどぶよぶよになったとして来院されました。患者は長年、多忙を理由に歯科検診を怠っており、当該部位には以前から重苦しい違和感があったものの、激しい痛みがなかったため放置していました。口腔内診査の結果、左上第2大臼歯の周囲の歯茎は赤紫色に充血し、広範囲にわたって弾力性のない、いわゆるぶよぶよとした浮腫状の腫脹が認められました。プロービング検査では、10ミリを超える深い歯周ポケットが計測され、そこから大量の膿と出血が確認されました。レントゲン画像およびCTスキャンによる精査では、歯を支える歯槽骨が根の先端近くまで吸収されており、深刻な歯周組織の破壊が進行していることが判明しました。この患者の診断名は、慢性歯周炎の急性発作に伴う歯周膿瘍です。治療計画として、まずは急性症状を抑えるために、局所麻酔下でポケット内を徹底的に洗浄し、膿を排出するドレナージを行いました。同時に、全身的な感染拡大を防ぐために広域抗生物質を4日間処方しました。1週間後の再診時には、ぶよぶよとしていた歯茎の腫れは劇的に改善し、引き締まった状態にまで回復しましたが、依然として深いポケットが残存していたため、フラップ手術と呼ばれる歯周外科処置へと移行しました。この手術により、目視下で根の表面に強固に付着していた歯石や汚染組織を完全に除去し、骨の形態を整えました。半年間のメインテナンスを経て、現在では歯茎の腫れは完全に消失し、歯の揺れも最小限にまで改善しています。本事例から得られる教訓は、奥歯の「ぶよぶよ」とした腫れは、単なる表面的な問題ではなく、土台である骨が失われている可能性が高いということです。慢性的な炎症は、痛みを感じにくいという特性があるため、患者本人が気づいた時には手遅れに近い状態であることも少なくありません。また、この患者さんは糖尿病を患っており、お口の中の炎症が血糖コントロールを悪化させていたことも分かりました。歯科治療と並行して内科での治療も改善が見られ、口腔と全身の密接な関係を再確認する結果となりました。奥歯の歯茎の異変は、全身の健康状態を映し出す鏡でもあります。ぶよぶよとした不快な感触を見逃さず、徹底的な検査と治療を行うことが、健康な50代、60代を過ごすための必須条件と言えるでしょう。
奥歯の歯茎がぶよぶよに腫れた慢性歯周炎の事例