夜中に突然奥歯が欠けた、あるいは夕食中に欠けてしまい、もうどこの歯医者も開いていないという絶望的な状況を乗り切るためには、いくつかの具体的な知恵が必要です。まず、パニックにならずに欠けた部位を確認しましょう。鏡を見て、出血がないか、また歯の破片が口の中に残っていないかを確認します。破片を見つけた場合、それが大きなものであれば念のため保管しておきましょう。基本的には再利用できないことが多いですが、医師が欠け方を診断する上で貴重な情報源となります。夜間の痛みについては、姿勢が大きく関係します。横になると頭部に血流が集中するため、歯の内部の圧力が上がり、痛みが強く感じられるようになります。もし疼くような痛みがある場合は、枕を高くして寝るか、上半身を少し起こした状態で過ごすことで、拍動性の痛みを和らげることができます。冷やすことも有効ですが、キンキンに冷えた氷を直接当てるのは逆効果です。冷たいタオルを頬の外側から当てる程度が、血管を穏やかに収縮させ、炎症の進行を抑えるのに適しています。また、精神的な不安は痛みを増幅させる要因になります。「すぐに歯医者に行けないから、もうこの歯はダメになってしまう」と悲観する必要はありません。現代の歯科技術では、神経が生きていればもちろんのこと、たとえ神経を取ることになったとしても、歯そのものを抜かずに残せる確率は非常に高いのです。まずは一晩を静かに過ごすことに集中しましょう。夜食などは避け、お口の中を中性に保つことが、さらなるダメージを防ぐコツです。もし激痛でどうしても眠れない場合は、救急の夜間歯科診療所を探すという選択肢もあります。主要な都市であれば、歯科医師会が運営する夜間急病センターが存在することが多いため、事前に場所を確認しておくと精神的なお守りになります。ただし、そこでの処置もあくまで応急的な鎮痛や消毒に限定されるため、翌日以降の本治療は必須となります。自分で行う「間違いだらけのケア」にも注意が必要です。瞬間接着剤で破片をつけようとしたり、マニキュアを塗って保護しようとしたりといった自己流の処置は、歯の表面を化学的に汚染し、その後の歯科治療を著しく困難にさせます。化学物質が神経を直撃すれば、本来残せたはずの神経を死なせてしまうことにもなりかねません。何も塗らず、何も貼らず、ただ清潔にして安静にする。これが、専門医にバトンタッチするまでの最善かつ唯一の方法です。また、朝起きた時に、食いしばりによって欠けた部分がさらに深くなっていないか確認してください。もし朝に痛みが強まっているなら、寝ている間に無意識に噛み締めている可能性があります。こうした情報は、後のマウスピース治療などの予防策を立てる際にも役立ちます。不安な夜は長く感じられるものですが、適切な対処を知っていれば、冷静に朝を待つことができるはずです。