奥歯が欠けたのに仕事が忙しかったり、連休中だったりして、すぐに歯医者に行けないという状況は非常にストレスフルなものです。しかし、このような時こそ冷静な自己管理が求められます。歯が欠けたということは、本来お口の中の過酷な環境から内部を守っていたバリアが破壊されたことを意味します。私たちの口内には常に数千億個の細菌が存在しており、欠けた隙間からそれらが容易に侵入してきます。この期間に最も警戒すべきは、露出した象牙質の汚染です。象牙質はエナメル質に比べて非常に柔らかく、酸にも弱いため、放置すれば数日で虫歯が進行し始めることもあります。自宅での管理において最も効果的なのは、徹底したプラークコントロールです。とはいえ、欠けた部分を歯ブラシでゴシゴシ磨くのは、知覚過敏のような痛み(咬合痛や冷感痛)を誘発するため、毛先の柔らかいブラシを使い、撫でるように汚れを落とすことが肝要です。また、殺菌作用のあるうがい薬を併用し、患部の菌の密度を下げることも有効な手段となります。さらに、お口の中の乾燥を防ぐことも重要です。唾液には再石灰化を促し、細菌の活動を抑える自浄作用がありますが、口呼吸などで口内が乾くとその恩恵が受けられなくなります。こまめな水分補給を心がけ、唾液の分泌を促しましょう。もし、欠けた歯の周囲の歯茎が腫れてきたり、拍動性の痛み(ドクドクする痛み)が出てきたりした場合は、単なる欠けではなく、細菌が神経に達して急性炎症を起こしているサインです。この状態で放置すると、顔の半分が腫れ上がったり、発熱したりする全身症状に発展することもあります。どうしても受診できない場合でも、せめて電話で歯科医院に現在の状況を相談し、適切なアドバイスを仰ぐべきです。また、意外と見落としがちなのが、欠けたことによる噛み合わせの変化です。1か所の歯が欠けると、上下の歯が正しく噛み合わなくなり、隣の歯や反対側の歯に過剰な負担がかかるようになります。これが続くと、健康だった他の歯までが痛み出したり、顎の関節に負担がかかって顎関節症を引き起こしたりします。食事の際は意識的にゆっくりと、小さな一口で食べるようにし、顎への負担を軽減させてください。タバコなどの刺激物も、歯茎の血流を悪化させて修復を遅らせる要因となるため、受診までの期間は控えるのが賢明です。欠けた奥歯の管理は、いわば「時限爆弾のタイマーを止める作業」に似ています。自分で治すことは不可能ですが、爆発(激痛や抜歯への進行)を防ぐための猶予を作ることは可能です。お口の健康は全身の健康の入り口であり、その一部が損なわれた状態は緊急事態であるという認識を持ちつつ、可能な限り早い受診を実現できるようスケジュールを調整してください。最新の歯科医療では、適切な管理さえされていれば、多少の期間が空いても十分に保存・修復が可能ですが、それはあくまで適切なセルフケアが前提であることを忘れないでください。
すぐに歯医者に行けない時の欠けた歯の管理