引き締まっていたはずの歯茎が、なぜぶよぶよとした締まりのない状態になってしまうのでしょうか。その背景には、口の中で起きている静かな戦い、すなわち歯周病の進行が深く関わっています。私たちの口の中には、常に数百種類もの細菌が生息しています。これらの細菌は、歯磨きが不十分だと歯の表面に集まり、歯垢(プラーク)という細菌の塊を形成します。この歯垢こそが、歯茎をぶよぶよにさせる元凶なのです。歯垢の中に潜む歯周病菌は、毒素を放出しながら歯と歯茎の隙間に侵入していきます。すると、私たちの体は異物を排除しようと防御反応を起こし、歯茎に炎症を引き起こします。これが歯肉炎の始まりです。この炎症反応によって、歯茎の毛細血管が拡張し、血液成分が組織内に漏れ出すため、歯茎は赤く腫れあがります。この状態が長く続くと、さらに深刻な事態が起こります。歯周病菌の出す毒素や、炎症反応によって生じる物質が、歯茎を構成しているコラーゲン線維を破壊し始めるのです。コラーゲン線維は、歯茎にハリと弾力を与え、引き締まった状態を保つための重要な骨組みです。この骨組みが壊されてしまうと、歯茎はまるで骨抜きのようになってしまい、弾力を失ってぶよぶよとした状態になります。さらに、炎症によって歯と歯茎の付着が剥がれ、歯周ポケットが形成されると、その内部は酸素の少ない環境となり、より悪性度の高い歯周病菌が繁殖しやすくなります。これにより炎症はさらに悪化し、歯茎のぶよぶよもますますひどくなるという負のスパイラルに陥ってしまうのです。歯茎のぶよぶよは、単なる見た目の問題ではなく、歯茎の内部組織が破壊されている証拠です。このメカニズムを理解し、原因である歯垢を徹底的に除去することが、健康な歯茎を取り戻すための鍵となります。