歯茎が下がる「歯肉退縮」は、見た目の問題だけでなく、知覚過敏や虫歯のリスクを高める深刻な状態です。この厄介な現象は、なぜ起きてしまうのでしょうか。その原因は一つではなく、いくつかの要因が複雑に絡み合っていることが多いですが、主に二つの大きな原因が挙げられます。一つ目の、そして最大の原因が「歯周病」です。歯周病は、歯垢に含まれる細菌が引き起こす感染症で、歯茎に炎症をもたらします。この炎症が進行すると、歯を支えている顎の骨(歯槽骨)をじわじわと溶かしていきます。歯茎は、この歯槽骨の上に乗っている組織です。そのため、土台である骨が失われれば、その上にある歯茎も一緒に下がっていかざるを得ないのです。歯周病による歯肉退縮は、しばしば歯茎の腫れや出血を伴います。二つ目の大きな原因は、「不適切なブラッシング」です。歯をきれいにしたいという思いが強すぎるあまり、硬い毛先の歯ブラシで、強い力を込めてゴシゴシと磨いてしまう習慣がある人は要注意です。このような過度な力によるブラッシングは、歯の表面のエナメル質を削ってしまうだけでなく、デリケートな歯茎の組織を物理的に傷つけ、すり減らしてしまいます。これを「ブラッシング性歯肉退縮」と呼びます。この場合、歯茎に炎症は見られず、むしろ引き締まっていることが多いのが特徴です。その他にも、噛み合わせの力が特定の歯に強くかかりすぎる「咬合性外傷」や、歯ぎしり・食いしばりの癖、矯正治療に伴う歯の移動などが、歯茎が下がるリスクを高める要因となることがあります。また、もともとの歯茎が薄い、骨が薄いといった遺伝的な要因も関係します。自分の歯茎が下がっている原因が何なのかを正しく知ることが、進行を食い止めるための第一歩です。