下がった歯茎を外科的に回復させる方法として「歯肉移植術」があります。これは、歯周形成外科という専門分野の治療法で、失われた歯茎を他の場所から持ってきた組織で補う、いわば「歯茎のお引越し」です。この治療によって、歯茎はどの程度まで元に戻すことができるのでしょうか。歯肉移植術には、主に二つの方法があります。一つは「遊離歯肉移植術(FGG)」です。これは、主に上顎の口蓋(口の天井部分)から、表面の上皮ごと歯茎の組織を切り取り、歯茎が足りない部分に移植する方法です。この方法は、歯茎そのものの厚みを増やし、丈夫で引き締まった歯茎を作ることを目的としており、歯周病の進行を抑制する効果が高いとされています。もう一つは「結合組織移植術(CTG)」です。これも上顎の口蓋から組織を採取しますが、表面の上皮は残し、その内側にある結合組織だけを取り出して移植します。この方法は、移植した組織の色調が周囲の歯茎と馴染みやすく、審美的な回復、つまり見た目をきれいにすることに優れています。特に前歯など、見た目が気になる部分の歯肉退縮に適しています。では、これらの手術で歯茎は完全に元の位置まで戻るのでしょうか。結論から言うと、ケースバイケースであり、100%の回復を保証するものではありません。成功率は、歯茎が下がった原因や範囲、歯と歯の間の骨がどれだけ残っているか、そして患者さん自身の治癒力や術後のケアに大きく左右されます。特に、歯と歯の間の骨が大きく失われている場合は、移植した歯茎に血液を供給することが難しくなるため、歯の根を完全に覆うことは困難になります。歯肉移植術は、下がった歯茎を回復させるための非常に有効な選択肢ですが、魔法の治療ではありません。手術のメリットとデメリット、限界について歯科医師から十分な説明を受け、納得した上で治療に臨むことが重要です。
歯肉移植で歯茎はどこまで戻るのか