歯茎のできものは、必ずしも歯の根の病気だけが原因ではありません。日本人の成人の多くが罹患していると言われる歯周病が進行することによっても、歯茎に膿の塊のようなできものが形成されることがあります。これは「歯周膿瘍(ししゅうのうよう)」と呼ばれ、歯周病が悪化した際に見られる症状の一つです。歯周病は、歯と歯茎の境目に溜まった歯垢(プラーク)の中の細菌によって引き起こされる感染症です。病気が進行すると、歯と歯茎の間の溝、いわゆる「歯周ポケット」がどんどん深くなっていきます。この深い歯周ポケットの内部で、歯周病菌が異常に増殖し、強い炎症を起こして膿が溜まることがあります。通常、この膿は歯周ポケットの入り口から自然に排出されますが、何らかの理由でポケットの入り口が塞がれてしまうと、膿の逃げ場がなくなり、歯茎の内部に溜まって風船のようにぷっくりと腫れあがります。これが歯周膿瘍です。歯周膿瘍は、しばしば強い痛みや拍動感(ズキズキとした痛み)を伴います。歯が浮いたような感じがしたり、噛むと痛んだりすることもあります。また、体全体の免疫力が低下している時、例えば疲労が溜まっている時や風邪をひいている時などに、急に症状が現れやすいという特徴もあります。このできものを放置していると、膿の圧力によって歯を支えている周りの骨(歯槽骨)が急速に破壊されてしまいます。その結果、歯が大きくぐらつき始め、最終的には抜歯せざるを得なくなるケースも少なくありません。歯周膿瘍は、歯周病がかなり進行していることを示す危険なサインです。もし、歯茎が赤く腫れ、痛みを伴うできものが現れたら、それは緊急事態だと認識し、一刻も早く歯科医院で適切な排膿処置と、歯周病の根本的な治療を受ける必要があります。